ABOUT THE MOVIE この映画について
ピエール監督は4年にわたり、私の歓喜と苦悩を目の当たりにしてきた。 映画『ノーマ、世界を変える料理』では、そういった場面が隠されることなく正直に、 深い洞察によって表現されていることをうれしく思う。 私はこれまで、このような観点からシェフを描いた映画を見たことがない。 —レネ・レゼピ (「ノーマ」創設者・料理長)
英国のレストラン誌が選ぶ「世界ベストレストラン50」第1位にこれまで4度輝き、2015年1月に東京で約30日間限定出店した際には、定員約2千人のところ、全世界から6万件以上の予約が殺到したことでも大きな話題を集めた、デンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma(ノーマ)」。その成功の裏には、25歳にして自身の店舗を創業したカリスマシェフ、レネ・レゼピの並外れた努力と挑戦の軌跡があった。「レネは偉業を成し遂げた。それまで存在すらしなかった北欧独自の料理を作ったんだ」。伝説のレストラン「エル・ブリ」の天才料理長として知られる、フェラン・アドリアにそう言わしめた存在だ。彼の掲げたアイデアは、厳しい自然環境から美食とは無縁の地とされてきた北欧で、その土地の食材にこだわること。自然の中にある未知の味との出会いを求め、一般的には使用しない生きた蟻を拾い、道端に咲いたバラの花を摘み、苔までをも採集し、美しい料理へと昇華させる。こうして、その土地の恩恵を受けた食材を採集し、実験し、ゼロから北欧料理を創造することに成功したレネは、“おいしさ”だけを追求してきた従来の美食の常識を塗り替えることに。やがて、「ノーマ」は世界一のレストランへと成長し、いつしかデンマーク経済をも変えてしまう存在となる—。
既成観念に囚われない、レネのハードコアなスタイルは、世界中のマスコミや美食家たちをも魅了する。古典的な高級レストランのルールは一切度外視。テーブルクロスも銀食器もない。コックの腕に刻まれたタトゥーはもちろん隠さない。厨房ではロックだってかける。世界中から集まる若きスタッフとフランクに意見を酌み交わし、談笑したり、ときに怒りをぶつけたり、実に人間的な空間で生み出される料理たちは、自然が凝縮されたかのような美しさがある。ハーブで燻した酢漬けの卵や、カブの器に入った花の蜜の食前酒、花束のような野菜に蟻が歩き回るソース。食材のおいしさを最大限に引き出しながらも、洗練された斬新なレシピの数々。それらを生み出すべく、休むことなく追求を続けるレネの人生哲学を追いながら、移民として差別を受けてきた自身の生い立ちや、「ノーマ」立ち上げ当初の苦心などを交え、知られざる彼の内面へと迫っていく。さらに、2013年に突如襲ったノロウィルスによる食中毒事件、そして3年連続一位の座からの転落。最悪の状況から再び世界一の座に返り咲くまで—壮絶な嵐のような道のりを追う、4年間の密着ドキュメンタリーが誕生した。
1977年12月16日、デンマーク・コペンハーゲンで誕生したレネ・レゼピ。イスラム系移民の父とプロテスタントの母の元に生まれ、幼少期は祖父の故郷であるマケドニア共和国(旧ユーゴスラビア)の農家で育つ。自給自足の緑豊かな地での暮らしは、村全体が家族のような幸せな環境であった。マケドニアで過ごした体験から、その土地原産の材料を探求することへの関心が芽生える。デンマークに越してきてからは、父がイスラム系移民という背景から不当な差別を受けることも多々あった。地元の料理学校で学んだ後、スペインの「エル・ブリ」、アメリカの「ザ・フレンチ・ランドリー」など世界有数の一流レストランで腕を磨き、2003年、25歳で「ノーマ」のヘッドシェフ兼、創設者の一人となる。2012年にはタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれる。尽きることのない探究心と向上心から、食への革新的な取り組みも積極的に行っている。通常捨ててしまう食材をあえて料理とする「トラッシュ・クッキング」など「ノーマ」独自のプロジェクトのみならず、食に関する研究所「ノルディック・フード・ラボ」の設立、世界中の食に関わる全ての人々を対象としたフェスティバル「MADフェスティバル」の開催など、その活動は留まるところを知らない。料理の世界に革命をもたらしたシェフとして同世代で最も尊敬され、評価されている。「ノーマ」というひとつの家族の、父親的役割を担うレネ。プライベートでも「ノーマ」のスタッフ、ナディーン・レヴィと結婚し、3人の子どもを持つ良き父である。
1977 | 0歳 | イスラム教徒の父とプロテスタントの母の間に生まれる |
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2003 | 25歳 | レストラン「ノーマ」をオープン |
2008 | 30歳 | 美食を探求する非営利の研究所「ノルディック・フード・ラボ」設立 仏ミシュラン2つ星を獲得 |
2010 | 32歳 | 「世界ベストレストラン50」第1位 スタッフ同士がチームとなって新たな料理を完成させ、発表する「サタデーナイトプロジェクト」開始 初の著書「ノーマ—北欧料理の時間と場所」を英ファイドン社から出版 |
2011 | 33歳 | 「世界ベストレストラン50」第1位 「ノーマ」主催で毎年開催される草の根的な食のフェスティバル「MADフェスティバル」第一回開催 『ノーマ、世界を変える料理』の密着開始 |
2012 | 34歳 | 「世界ベストレストラン50」第1位 タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出 |
2013 | 35歳 | ノロウィルス食中毒事件発生 「世界ベストレストラン50」第2位 著書「進化するレストランNOMA」を英ファイドン社から出版 |
2014 | 36歳 | 「世界ベストレストラン50」第1位 |
2015 | 37歳 | 「世界ベストレストラン50」第3位 マンダリンオリエンタル東京にて、期間限定(1/9~2/14)で「Noma TOKYO」をオープン |
2016 | 38歳 | オーストラリア、シドニー湾のバランガルー地区で10週間限定で「Noma AUSTRALIA」(1/26~4/2)をオープン コペンハーゲンの「ノーマ」を一旦閉店 |
2017 | 39歳 | クリスティアニア地区に店舗を移転し、「都会の農場」として再オープン予定 |
「ノーマ」は、2003年、本国・デンマークの人々の価値観を美食で変えた革命児、レネ・レゼピと元共同経営者クラウス・マイヤーによって、デンマーク・コペンハーゲンにオープンしたわずか12卓、45席のレストラン。オープン当初は、「北欧の材料だけを使うなんて不可能だ」「アザラシ野郎」などとバカにされ、飲食業界から総スカンを食らう。「時間」と「場所」を感じさせる料理というコンセプトを定めてからは、「ノーマ」に貢献する生産者たちからの協力も後押しし、2008年には仏ミシュランで2つ星を獲得。2010年から2012年、2014年とこれまでに「世界ベストレストラン50」で4度も1位に輝き、“世界一のレストラン”と評される。北欧産の食材だけを使うことにこだわる「ノーマ」では、色とりどりの花や生きた海老、蟻までもが提供される。この自然と命が息づく革新的かつ独創的なスタイルは、美食とは無縁の土地柄とされてきた北欧料理の世界に新しい潮流を生み出し、世界中の人々を虜にした。また、年間に用意できる2万席に対し世界中から100万件以上の予約応募がある「ノーマ」は、デンマークの飲食業界の枠を超え、自国に大きな経済効果(観光客の11%増加)をもたらしたと言われている。
2015年1月にはコペンハーゲンの本店を休業し、皿洗いからシェフまで約70名のスタッフを総動員して来日。期間限定で東京に出張レストランとして「ノーマ・アット・マンダリン・オリエンタル・東京」を出店した。7万円近い高価なメニューにもかかわらず、期間中に用意できる約2千席に対して世界各国の美食家からの応募が殺到し、6万人以上がウェイティングリストに名を連ねたことで大きな話題を呼んだ。半年間かけて日本各地を巡り、ボタンエビに長野県の森林で採取した蟻を散らしたメニュー「長野の森香るボタンエビ」をはじめ、本国と同じクオリティの料理とサービスを振る舞ったことも記憶に新しい。器のコーディネートは、スタイリストであり「ARTS& SCIENCE」のオーナー、ソニア・パーク氏が担当した。時を同じくして、「エル・ブリ」や「ノーマ」で修行したシェフ・橋本宏一氏がレストラン「セララバアド」(東京)をオープンするほか、「ノーマ」のDNAが日本でも根付き始めていることがわかる。
2016年1月には、オーストラリア・シドニーにて期間限定で出張店舗をオープン。東京出店と同じく、開始から数分で定員に達した予約サイトはウェイティングリスト専用と化している。年末にかけて本国の「ノーマ」は一旦閉店となるが、2017年には自ら家畜や農作物を育て食材とする「都市農園」として再オープンすることが発表された。コペンハーゲン中心部にあるヒッピーたちの自治地区、クリスティアニア近くの倉庫に居を構えることになる新農園は、屋上に温室を設け、農園の一部を水に浮かばせる計画も。旬を一層取り入れたレストランも併設。さらなる進化を遂げる「ノーマ」の今後からも目が離せない。
世界ベストレストラン50(The World's 50 Best Restaurants)とは
英国のウィリアム・リード・ビジネス・メディア社が2002年に設立した世界的なレストランアワード。年に一回、各国の食の専門家や評論家など930余名の評議委員の投票数により、世界中のレストランの中から選ばれた50店をランキングで発表する。1位のレストランには年間200万件ものアクセスが集中し、ランキングが料理業界だけでなく、観光を含む国の経済効果にも大きく影響するといわれる。現在、世界の若手シェフたちの間では「ミシュランより世界ベストレストラン50を狙いたい」という声も多い。
フランス出身。90年代初めから、テレビ業界で活躍。2007年にショート・ドキュメンタリー「Looking North For A Gastronomic Revolution(原題)」(08)を撮影するため「ノーマ」を訪れた事がきっかけで『ノーマ、世界を変える料理』を製作することになった。本作は、デュシャンにとって初の長編映画であるにも関わらず第63回サン・セバスチャン国際映画祭キュリナリー・シネマ部門でTOKYO GOHAN AWARD(最優秀作品賞)を受賞。第66回ベルリン国際映画祭キュリナリー・シネマ部門にも正式出品されるなど数多くの映画祭で高く評価されている。イギリスのブライトンを拠点に活動し、プライベートでは、本作のプロデューサーでもある妻のエタ・トンプソン・デュシャンとの間にカシウス、ルー、ナマステの3人の子どもがいる。