監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ  映画『ハッピーエンド』

監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ  映画『ハッピーエンド』

監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ 『愛、アムール』 イザベル・ユペール  ジャン=ルイ・トランティニャン  マチュー・カソヴィッツ ファンティーヌ・アルドゥアン フランツ・ロゴフスキ ローラ・ファーリンデン  AND  トビー・ジョーンズ 2017年/フランス、ドイツ、オーストリア/仏語/107分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:HAPPY END/日本語字幕:寺尾次郎/提供:KADOKAWA、ロングライド 配給:ロングライド 後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、ユニフランス

3月3日角川シネマ有楽町ほか全国順次公開

メイジャー

コメント

誰もが心に局所麻酔を打ち、おかげでどんな残酷なことも、悲惨なことも、すべては遠景での出来事としか感じない。そうした適応の仕方をわたしたちは巧みに身につけ、ハネケ監督はそれをシニカルに再現してみせた。

春日武彦(精神科医)

ハネケの作品を観るのは憂鬱な作業だ。目も眩む暴力の煌めきを、吐き気を催すサディズムを、生理的不快感に浸りながら、期待する自分が嫌なのだ。その冷徹な職人技に畏敬の念を覚えるとともに、私は心からこのエンディングを喜んでいる。ハッピーであるかどうかは知らないが。

楠本まき(漫画家)

情け容赦のない展開を登場人物たちに浴びせかけるミヒャエル・ハネケは、それを安全な場所で眺めるわれわれ観客のことも見過ごさない。無傷のままでいられるとでも思っているのかと、一撃を加える。動揺を突きつけてくる。

岡田利規(演劇作家・小説家・チェルフィッチュ主宰)

「少女という病」の周辺には、いつも死の気配がある。
不穏な空気に最後まで決して目を逸らせない物語。

雨宮処凛(作家・活動家)

交通網の発達、インターネットの普及、カメラ越しの運動会…距離を近づけるためのツールで、人はアイコンに変わってしまった。生命尽きる瞬間すらスマホを掲げるこの世界に、温もりを取り戻せる日は来るのだろうか。

春名風花(声優)

今の次代、演説・宣伝・弁明のような公的言語が氾濫し、私的対話が絶滅しかかっている。発語は「それで?」とか「それが?」によって、遮断され、相互理解は進まない。ここから生じる滑稽と絶望がミヒャエル・ハネケの残酷喜劇を生む。例えば、この映画のような。

斎藤 学(精神科医)

空っぽな現実は、スマホの中で物語となり、情熱を取り戻す。
孤独な観察者は、そうやってかろうじて、世界に踏みとどまる。
スマホを手にした少女は、新種の人類として生き延びる。
ハッピーエンド。

土屋 豊(映画監督)

淡々と描くことによって浮き彫りになることと隠れるものがある。タイトル通りハッピーエンドだったのか。皮肉なのか。劇中の戸惑う人達の顔が頭から離れないけど、僕はどちらかといえばハッピーエンドだと思いました。

大橋裕之(漫画家)

エヴを演じた13歳の少女から、とにかく目が離せませんでした。
とにかく、最高に色っぽい。

前田エマ(モデル)

私たちは生きながら常に世界の断片しか知り得ないように、『ハッピーエンド』もまた出来事の断片のみを示しその総体を観客の想像力へと大胆に委ねてくる。そして、あらゆる人が最後には死という闇に至るとも、人生のどこかの断片においてはささやかでも救われる瞬間があるだろう。断片だからこそなしえるハッピーエンドがここにある。

深田晃司(映画監督)

ミヒャエル・ハネケとハッピーエンド。
この世にも不穏な組み合わせの中に濃縮された人間描写は、期待を裏切らぬ歪み節。なのに、ハネケ作品を見る度に隣人を愛おしく再認識する気持ちは、一体どこから来るのだろうか?

砂田麻美(映画監督)

ハネケの作品を観るのは憂鬱な作業だ。目も眩む暴力の煌めきを、吐き気を催すサディズムを、生理的不快感に浸りながら、期待する自分が嫌なのだ。その冷徹な職人技に畏敬の念を覚えるとともに、私は心からこのエンディングを喜んでいる。ハッピーであるかどうかは知らないが。

楠本まき(漫画家)

「少女という病」の周辺には、いつも死の気配がある。
不穏な空気に最後まで決して目を逸らせない物語。

雨宮処凛(作家・活動家)

今の時代、演説・宣伝・弁明のような公的言語が氾濫し、私的対話が絶滅しかかっている。発語は「それで?」とか「それが?」によって、遮断され、相互理解は進まない。ここから生じる滑稽と絶望がミヒャエル・ハネケの残酷喜劇を生む。例えば、この映画のような。

斎藤 学(精神科医)

淡々と描くことによって浮き彫りになることと隠れるものがある。タイトル通りハッピーエンドだったのか。皮肉なのか。劇中の戸惑う人達の顔が頭から離れないけど、僕はどちらかといえばハッピーエンドだと思いました。

大橋裕之(漫画家)

私たちは生きながら常に世界の断片しか知り得ないように、『ハッピーエンド』もまた出来事の断片のみを示しその総体を観客の想像力へと大胆に委ねてくる。そして、あらゆる人が最後には死という闇に至るとも、人生のどこかの断片においてはささやかでも救われる瞬間があるだろう。断片だからこそなしえるハッピーエンドがここにある。

深田晃司(映画監督)

*順不同、敬称略

イントロダクション

「なぜ、やった?」「何を」85歳の祖父と、13歳の孫娘。ふたりを惹きつける大きな“秘密”。ハネケ監督がわたしたちに問いかける問題作。 『愛、アムール』のハネケ監督が、再び描く〝愛と死〟孤独な魂の出会いによって、禁断の扉が開く。

『白いリボン』と『愛、アムール』で二度にわたって、カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールに輝いた名匠ミヒャエル・ハネケ。『愛、アムール』では老境の夫婦ジョルジュとアンヌの愛と死に透明な視線を投げかけ、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。
それから5年、昨年のカンヌ映画祭を衝撃の渦に巻き込んだ『ハッピーエンド』では、フランスの移民問題を象徴する街カレーの瀟洒な邸宅に住まうロラン家を背景に、『愛、アムール』の続きともとれる、新たな愛と死を衝撃的に描く。

ハネケは祖父ジョルジュと疎遠だった孫娘エヴの再会に光を当てる。幼い頃父に捨てられ、愛に飢え、死とSNSの闇に取り憑かれたエヴの閉ざされた扉を、ジョルジュの衝撃の告白がこじ開ける。『ハッピーエンド』は、現代のヨーロッパに“教養あるブルジョワジーはもはや存在しない”ことを炙り出しながら、ディスコミュニケーションの闇が広がる今、孤独な魂の会合が断絶した絆に血が通う瞬間に観客を立ち会わせる。

ジャン=ルイ・トランティニャン、イザベル・ユペール屈指の実力を持つ名優たち ジャン=ルイ・トランティニャン、イザベル・ユペール
屈指の実力を持つ名優たち

祖父ジョルジュを演じるのは『愛、アムール』の名優ジャン=ルイ・トランティニャン。ジョルジュの娘役には、『ピアニスト』はじめ、ハネケ作品では常連のイザベル・ユペール。昨年『エル ELLL』でオスカー主演女優賞にもノミネートされ、乗りに乗るユペールがビジネスマンとして辣腕を振るう一方で、エゴイスティックな現代ブルジョワの姿を体現してみせる。トランティニャンとユペールが前作に続いて父と娘を演じるのも見逃せない。ほか、マチュー・カソヴィッツ、トビー・ジョーンズら、ヨーロッパ屈指の実力俳優の饗宴に、ハネケによって抜擢されたファンティーヌ・アルドゥアンがヒロインとして加わった。

ストーリー

カレーに住むブルジョワジーのロラン家は、瀟洒な邸宅に3世帯が暮らす。その家⻑は、建築業を営んでいたジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)だが、⾼齢の彼はすでに引退している。娘アンヌ(イザベル・ユペール)が家業を継ぎ、取引先銀⾏の顧問弁護⼠を恋⼈に、ビジネスで辣腕を振るっている。専務職を任されたアンヌの息⼦ピエール(フランツ・ロゴフスキ)はビジネスマンに徹しきれない。使⽤⼈や移⺠労働者の扱いに関しても、祖⽗や⺟の世代への反撥があるものの、⼦供染みた反抗しかできないナイーヴな⻘年だ。またアンヌの弟トマ(マチュー・カソヴィッツ)は家業を継がず、医師として働き、再婚した若い妻アナイス(ローラ・ファーリンデン)との間に幼い息子ポールがいる。その他、幼い娘のいるモロッコ⼈のラシッドと妻ジャミラが住み込みで⼀家に仕えている。

一家は、同じテーブルを囲み、⾷事をしても、それぞれの思いには無関⼼。SNSやメールに個々の秘密や鬱憤を打ち込むだけ。ましてや使⽤⼈や移⺠のことなど眼中にない。そんな家族の中、ハネケは祖⽗ジョルジュと疎遠だった孫娘エヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)の再会に光を当てる。⽼いた祖⽗は、意に添わぬ場⾯ではボケたふりをして周囲を煙に巻きながら、死の影を纏うエヴのことも実はちゃんとお⾒通し。⼀⽅、幼い頃に⽗に捨てられ、愛に飢え、死に取り憑かれたエヴもまた醒めた⽬で世界を⾒つめている。秘密を抱えた⼆⼈の緊張感漲る対峙。ジョルジュの衝撃の告⽩は、エヴの閉ざされた扉をこじ開ける―――

スタッフ

監督・脚本

ミヒャエル・ハネケ

MICHAEL HANEKE

1942年⽣まれ。3歳の頃、家族でオーストリアに移住。ウィーン⼤学在学中に哲学、⼼理学、演劇を学ぶ。67年からはドイツのテレビ局に勤務したのち、70年に独⽴して映画監督・脚本家に。「セブンス・コンチネント」(89)で⻑編デビュー以後、数々の作品で世界中の映画祭で⾼い評価を受ける。『愛、アムール』(12)で2012年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞。前作『⽩いリボン』(09)に続き、2作品連続パルムドール受賞という快挙を成し遂げた。さらに、2013年⽶国アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、世界中から喝采を浴びた。本作は、『愛、アムール』から5年ぶりの新作となる。

キャスト

イザベル・ユペールISABELLE HUPPERT

アンヌ・ロラン

1953年、フランス生まれ。昨年日本で公開の『エル ELLE』(16)で怪演、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされ世界中で注目を浴びた。フランスを代表する女優の一人で、初めてハネケ監督と組んだ『ピアニスト』(01)でカンヌ映画祭主演女優賞を獲得。その後も『8人の女たち』(02)、『アスファルト』(15)、『未来よ、こんにちは』(16)、『3人のアンヌ』(12)、『母の残像』(16) など出演。

ジャン=ルイ・トランティニャンJEAN-LOUIS TRINTIGNANT

ジョルジュ・ロラン

1930年、フランス生まれ。1955年に映画デビュー。クロード・ルルーシュ監督作『男と女』(66)に出演し、名が世界中に知れ渡る。自らプロデューサーを務めた『Z』(69)でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。『暗殺の森』(70)、『日曜日が待ち遠しい』(82)、『天使が隣で眠る夜』(94)など、これまでに100本以上の映画に出演。長い間、映画出演は控えていたが『愛、アムール』(12)に続きハネケ監督作に出演。

マチュー・カソヴィッツMATHIEU KASSOVITZ

トマ・ロラン

1967年、フランス生まれ。監督・出演した『カフェ・オ・レ』(93)で注⽬を浴び、『憎しみ』(95)でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞。その他の主な出演作は『クリムゾン・リバー』(00)、『天使が隣で眠る夜』(94)、『アメリ』(01)、『ミュンヘン』(05)、『エージェント・マロリー』(11)など。

トビー・ジョーンズTOBY JONES

ローレンス

1967年、イギリス、オックスフォード生まれ。『オルランド』(92)で映画デビュー。ローレンス・オリヴィエ賞受賞俳優として舞台に立つ一方、『裏切りのサーカス』(11)、『五日物語 -3つの王国と3人の女-』(15)、『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』(16)、『アトミック・ブロンド』(17)などに出演している。

フランツ・ロゴフスキFRANZ ROGOWSKI

ピエール・ロラン

1986年、ドイツ⽣まれ。ベルリン国際映画祭で撮影監督が最優秀芸術貢献賞を受賞した『ヴィクトリア』(15)に出演。

ローラ・ファーリンデンLAURA VERLINDEN

アナイス

1984年、ベルギー⽣まれ。「Ben X」(07)、「死の影」(12)に出演。その他の出演作はゴールデングローブ賞外国語映画賞にノミネートされた、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督作『神様メール』(15)など。

ファンティーヌ・アルドゥアンFANTINE HARDUIN

エヴ

2005年、ベルギー、ムスクロン⽣まれ。演技とともに、サーカス学校にも通い、7歳のとき、短編映画「Taram Tarambola」(14) でデビュー。その他の出演作は「アラジン、新たなる冒険」(15)、ベルギーのTV シリーズ「Ennemi public」(16)、『少⼥ファニーと運命の旅』(16)など。