ペンを握りしめて激動の時代を生き抜いた
奮闘の画家ジュゼップ・バルトリの驚くべき人生
1910年にスペイン・バルセロナでこの世に生を受けた画家ジュゼップ・バルトリは、まぎれもなく歴史上に実在したアーティストだが、にわかには信じがたいほど波瀾万丈の人生を送った彼を知る日本人はほとんどいないだろう。スペイン内戦時代に共和国軍の一員としてフランコの反乱軍に抵抗し、1939年には避難先のフランスの強制収容所で想像を絶する過酷な難民生活を経験。収容所からの脱走を繰り返したのち、1942年にメキシコへの亡命に成功し、フリーダ・カーロの愛人となる。そして1945年にニューヨークへ拠点を移したジュゼップは、マーク・ロスコ、チャールズ・ポロックらと交流を持ち、画家としての名声を確立していった。
第73回カンヌ国際映画祭に正式出品されたアニメーション映画『ジュゼップ 戦場の画家』は、フランスの全国紙ル・モンドなどのイラストレーターとして活躍してきたオーレルの長編監督デビュー作だ。ジュゼップが残したいくつもの鮮烈な絵画に触発され、今こそ伝えるべき尊いメッセージを見出したオーレルは、この偉大な先人の作品に初めて接したときから10年の歳月を費やして本作を完成させた。そんなふたりのアーティストの魂が時を超えて共鳴したこの映画は、フランスの第46回セザール賞で長編アニメーション賞、第26回リュミエール賞でアニメーション賞と音楽賞、第33回ヨーロッパ映画賞長編アニメーション賞とヨーロッパの映画賞を総ナメし、ここ日本では『この世界の片隅に』の片渕須直監督らが審査員を務めた東京アニメアワードフェスティバル2021でグランプリと東京都知事賞を受賞。さらに大手映画批評サイトのロッテントマトで100%フレッシュを獲得するなど、世界的な絶賛を博している。戦禍の時代を生き抜いた人々を感動的に描き上げた『この世界の片隅に』『風立ちぬ』、そして史実に基づいて戦争や人間の残酷さをえぐり出した『戦場でワルツを』などに通じる新たな傑作の誕生である。
コメント
この映画を通じて、収容、抵抗、証言、そして土地を追われることの概念を私は問いかけたい。レジスタンスの活動家は命を懸けてでも戦いを続ける。
一方、ジャーナリストは事実を証言するために自分の命を守りながら物事を観察しなければならない。バルトリはその両者だった。武器が無意味になると、彼はペンをとった。私の祖父たちは必要に迫られた時、武器をとった。どちらの選択が正しいかを伝えるため、私はペンをとる。