INTRODUCTION

ふたりの男のささいな口論が国を揺るがす法廷争いに――
人間の尊厳をかけ、彼らが見つけた新たな一歩に世界が震えた感動作

 クエンティン・タランティーノ監督のアシスタント・カメラマンという経歴を持つレバノン出身ジアド・ドゥエイリ監督最新作。監督の実体験をもとにした、どこの国でも起こりうる“ささいな口論”が国家を揺るがす法廷劇にまで発展していく物語は、本国で爆発的な大ヒットを記録。さらに世界中を感動の渦に巻き込み第74回ベネチア国際映画祭では主演のひとりカメル・エル=バシャがパレスチナ人初の男優賞を受賞。第90回アカデミー賞®ではレバノン史上初となる外国語映画賞ノミネートの快挙を成し遂げた。
 法廷で次々と明かされていく衝撃の真実と主人公たちが背負った紛争や民族、政治、宗教といった複雑で繊細な問題。忌まわしい過去ゆえに対立する者同士は決してわかり合えないのか。歴史の悲劇を教訓として、新たな一歩を踏み出すことはできないのか。万国共通の“今そこにある問題”を提起しながらも、個人それぞれの尊厳や赦しといった普遍的なテーマを追求したドラマは、観る者の心を深く揺さぶってやまない。

story

人間の尊厳をかけ二転三転する裁判の行方は――
圧倒的な驚きと感動に満ちた前代未聞の法廷劇

 レバノンの首都ベイルート。その一角で住宅の補修作業を行っていたパレスチナ人の現場監督ヤーセルと、キリスト教徒のレバノン人男性トニーが、アパートのバルコニーからの水漏れをめぐって諍いを起こす。このときヤーセルがふと漏らした悪態はトニーの猛烈な怒りを買い、ヤーセルもまたトニーのタブーに触れる “ある一言”に尊厳を深く傷つけられ、ふたりの対立は法廷へ持ち込まれる。
やがて両者の弁護士が激烈な論戦を繰り広げるなか、この裁判に飛びついたメディアが両陣営の衝突を大々的に報じたことから裁判は巨大な政治問題を引き起こす。かくして、水漏れをめぐる“ささいな口論”から始まった小さな事件は、レバノン全土を震撼させる騒乱へと発展していくのだった……。

CAST

アデル・カラム
トニー・ハンナ役
1972年、レバノン、ベイルート出身。これまで俳優・コメディアンとして数々の映画、テレビ作品に出演してきた。出演作に『キャラメル』(07)、『私たちはどこに行くの?』(11※2017年イスラム映画祭にて上映)などがある。
リタ・ハーエク
シリーン・ハンナ役
レバノン、ベイルート出身。レバノンのTVドラマ「A March Dream(英題)」(05・未)で注目を集め、「For Her Eyes(英題)」(10・未)、「That’s What Zahia Said(英題)」(11・未)などに出演。中東のニベア化粧品のブランドアンバサダーとしても活躍している。
カメル・エル=バシャ
ヤーセル・サラーメ役
1962年、東エルサレム出身。俳優、監督、脚本家として活躍。長編映画『Love, Theft and Other Entanglements(英題)』(15・未)などに出演。本作品で、パレスチナ人として初めて第74回ベネチア国際映画祭最優秀男優賞を受賞。
クリスティーン・シュウェイリー
マナール・サラーメ役
レバノン、ザーレ出身。『The Report(英題)』(86・未)でキャリアをスタートさせ、レバノン内戦中の1987年にフランスへ移り、グラフィックデザインを学んだ。1997年にベイルートへ戻り、それ以降多くのTVシリーズ、映画に出演。主な出演作は『ガーディ』(14※2015年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて上映)など。
カミール・サラーメ
ワジュディー・ワハビー役
これまで、レバノンで多くの演劇やTVシリーズで活躍し、『ガーディ』(14※2015年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて上映)、『Stable Unstable(英題)』(13・未)、『Troubled Waters(英題)』(13・未)などに出演している。
ディヤマン・アブー・アッブード
ナディーン・ワハビー役
『Here Comes the Rain(英題)』(10・未)、『Heels of War(英題)』(11・未)などに出演。共同脚本も務めた『Void(英題)』(13・未)ではレバノン映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。『シリアにて』(17※2017年東京国際映画祭にて上映)でもカイロ国際映画祭にて見事主演女優賞を獲得した。

STAFF

監督・脚本:ジアド・ドゥエイリ
1963年10月7日ベイルート生まれ。レバノン内戦状況下で少年期を過ごし、20歳の時にレバノンを離れアメリカへ留学。サンディエゴ州立大学で映画学位を取得。卒業後、ロサンゼルスでクエンティン・タランティーノ監督のカメラアシスタントとして『レザボア・ドッグス』(91)や『パルプ・フィクション』(94)などの作品に参加。『西ベイルート』(98)で⻑編デビュー以降、続く『Lila Says(英題)』(04・未)ではスペインのヒホン映画祭で男優賞・脚本賞など受賞。イスラエル人俳優を起用し、イスラエルで撮影を行ったため、政府によりレバノン国内での上映が禁止された『The Attack(原題)』(12・未)では、サン・セバスチャン国際映画祭審査員特別賞ほか世界中で上映され、高い評価を受ける。本作『判決、ふたつの希望』では第74回ベネチア国際映画祭で主演のひとりカメル・エル=バシャが最優秀男優賞を受賞し、レバノン史上初アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。
脚本:ジョエル・トゥーマ
1998年から脚本家、スクリプトドクターとして活躍。これまでにTV番組の司会や女優として活躍したほか、フランスとベルギーの日刊紙の、ベイルート特派員も務めた。後に脚本製作に専念するようになり、ジアド・ドゥエイリ監督・脚本の『Lila Says(英題)』(04・未)、『The Attack(原題)』(12・未)を共同執筆した。
撮影監督:トマソ・フィオリッリ
いくつかの短編映画に参加した後、『Cages(原題)』(06・未)で初めて長編映画デビュー。ゴルシフテ・ファラハニ出演『Go Home(原題)』(15・未)などで撮影を務め、ジャン・レノ主演「刑事ジョー パリ犯罪捜査班」(13)など、フランスのTVシリーズにも多数携わっている。本作は『The Attack(原題)』(12・未)、「Baron Noir(原題)」(16・未)に続き、ジアド・ドゥエイリ監督と3度目のタッグとなる。
編集:ドミニク・マルコンブ
  ジアド・ドゥエイリ監督初の長編映画『西ベイルート』(98)の編集でデビューを果たし、以来『The Attack(原題)』(12・未)と、エミー賞にノミネートされた「Baron Noir(原題)」(16・未)にも携わっている。出身地フランスにおける第一線の編集者として数多くのTVシリーズに参加している。
音楽:エリック・ヌヴー
フランソワ・オゾン監督作品『海をみる』(96)、『ホームドラマ』(98)を手がけ、以来フランスで作曲家としてキャリアを築く。2000年代初頭には、Mr. Neveuxの名でエレクトロニック・ミュージックのアルバムを2枚リリースした。本作は『The Attack(原題)』(12・未)に次ぐ、ジアド・ドゥエイリ監督とのコラボレーション2作目である。