映画「誰もがそれを知っている」公式サイト » Introduction

きっかけは15年前スペインで目にした行方不明者の写真
『別離』『セールスマン』のファルハディ監督が新たに挑んだ新境地

息づまるほどのスリリングなストーリー展開で観る者を夢中にさせる脚本、演出の巧みさ。人間や社会を多面的に捉える確かな観察眼と、そこに隠されたテーマの奥深さ。映画に豊かな面白さを吹き込むこれらのエッセンスをすべて兼ね備えたアスガー・ファルハディ監督は、今やまぎれもなく世界中で最も注目を集めるフィルムメーカーのひとりである。アカデミー賞®授賞式へのボイコットでも大きな話題となった前作『セールスマン』に続く待望の最新作は、15年前、スペイン旅行で目にした行方不明の子供の写真をきっかけに、長年構想を練り続けてきた野心作。

数年来の友人であり、実生活は夫婦でもあるスター俳優ペネロペ・クルスとハビエル・バルデムを主人公に当て書きして脚本を完成。世界でもすでに揺るぎない評価を確立している名匠が、それに甘んじることなく初めてのオール・スペインロケに挑み、新たな境地を切り開いた会心の一作である。

誘拐事件をきっかけに露わになる家族の秘密と嘘
どこの国にも起こりうる痛切な感情のドラマ

至福の喜びに満ちあふれた結婚パーティーの真っ最中に発生した少女誘拐事件が、当事者である家族に隠されていた秘密を呼び覚まし、幾重にも疑惑や嘘が錯綜していく極上のヒューマン・サスペンス。極限状況のもと、精神的にも肉体的にも追いつめられながら、刻一刻とドラマティックに変化していく人間模様からひとときも目が離せない。スペイン特有の気質や風習をリアルに取り込みながら、あらゆる観客を引き込む熟練の語り口こそはファルハディ監督の真骨頂。

しかもその映像世界は、隠喩的な表現を多用してきたこれまでの作品よりもストレートに強烈な感情を喚起する。どこの国の家族にも起こりうる痛切なドラマの成り行きに、誰もが胸を締めつけられずにいられないだろう。